ポジティブ教育は、ポジティブ心理学に基づいた教育で、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどの欧米諸国で広まりました。
ポジティブ心理学は、従来の心理学が心の病に対処するものだったのに対し、人がいまよりも幸福になるにはどうすれば良いか、ふつうの人のウェルビーイング※1を高めることを追究している学問です。1998年、当時全米心理学会会長だったペンシルベニア大学大学院教授のマーティン・セリグマン博士が提唱しました。現在、欧米やオーストラリアをはじめ、中国、シンガポールなどのアジア諸国など、世界各国で実証研究が進んでいます。
欧米諸国でポジティブ教育が普及した背景として、2000年代、うつ病を発症する子どもや若者が増え、また薬物依存や自殺などの社会的問題が起こったことがあげられます。アメリカやオーストラリアでは、社会的な問題解決策としてポジティブ教育がとり入れられました。実際、問題を抱える子どもたちの問題行動が減少するだけでなく、ふつうの子どもたちの学業成績や運動能力の向上などの成果が科学的に実証されています。
(注1)ウェルビーイング
世界保健機関(WHO)は、「単に病気ではない、虚弱ではないということではなく、身体的(physical)、精神的(mental)、そして社会的(social)にもすべてが良好で満たされた状態(ウェルビーイング)」と定義しています。
ポジティブ心理学では、PERMAという5つの要素を高めることにより、ウェルビーイングが高まることが実証されています。
P:Positive Emotion | ポジティブ感情。愛、喜び、笑い、感謝等の肯定的感情 |
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E:Engagement | やりがいのあることに夢中で打ち込むこと |
R:Relationship | 豊かで充実した人間関係を形成すること |
M:Meaning | 自分の行動や人生そのものに意味や意義を感じること |
A:Accomplishment | 目標を達成すること |
なお、PERMAのベースとなるのが、Character Strength(徳性の強み)です。
自分の徳性の強みを知り、日常生活の中で強みを生かした行動をとることから始め、以下のように行動することにより、ウェルビーイングが高まることが実証されています。
徳性の強みを知り、強みを生かした行動をとり、自分が好きなことに熱中し、さらに目標を設定して、目標の達成に向けて熱心に取り組むことが、非認知能力を高め、ウェルビーイングを高めるための第一歩です。
また、自分の徳性の強みを知るだけでなく、仲間の徳性の強みを知り、協働することにより、チームビルディングし、チームの目標達成をめざします。
日本では、非認知能力*2を高める教育が注目され、乳幼児期から取り組むのが効果的と言われ、幼児教育における非認知能力の育成のためのノウハウが蓄積されています。しかし小学校、中学校、高校へと進むにつれ、認知能力の向上に力点が置かれ、小学生、中学生を対象として非認知能力の育成が進んでいないのが実情です。
(注2)
テストやIQにより数値化できる「認知能力」に対し、共感力、コラボレーション力、共感力、創造力、レジリエンス、生き抜く力など総合的な人間力をいいます。ポジティブ教育によって育成される能力でもあります。